調査の重要性について

★調査をせずに見積を出すなど、ありえません!

みなさんが発熱したとします。それで、お医者さんに行くことをイメージしてください。

まず、「問診」を受けますね。
いつから熱が出たのか、のどに痛みはあるか、鼻のつまりはどうか、たんの量は多いか、など、先生から細かく質問されるでしょう。

次に、口を開けてのどの腫れを見たり、聴診器を当てたり、身体をたたいたりして検査しますよね。
症状によっては、レントゲン写真を撮ったり、検査キットなどを用いて、インフルエンザなどの検査を行うこともあるかもしれません。ここまでの行為が「診察」です。

その上で、先生としての所見が伝えられます。
これが「診断」です。
そして、診断結果に沿って、治療計画として、薬の処方箋が渡されます。診断によっては、再検査や転院、入院措置が取られることがあるかもしれません。

さて、「治す」か「直す」かの違いがあるにせよ、あるべき状態にするという点では、身体も建物も同じです。
建物をあるべき状態にする目的で行う工事においても、同じプロセスを踏む必要があると考えます。

弊社では、塗装工事の見積を依頼された際、平均して2~3時間を建物調査に費やしています。その内容は、おおよそ以下の通りです。

1.ヒアリング

ヒアリングは、建物調査においてたいへん重要です。
診断技術者がいくら知見を持っているといっても、建物の不具合は、普段建物に向き合っている方、例えば住宅であれば、住まい手のみなさまのほうが、よほどお気づきになられる可能性が高いのです。ですから、気になるところはないか、様子が変わってきたところはないか、などをご質問させていただきます。

また、塗り替え工事を行おうと思われたきっかけをお伺いいたしております。これは、みなさまが塗り替えに対し、何を求めておられるのかを明らかにするために、大事な質問になります。

2.図面のコピー

ご用意いただいている建築図面を、近くのコンビニなどでコピーさせていただき、お返しいたします。

実際の建物には、図面に載っていない部位が存在します。サイディングなどのパネル外壁におけるシーリング目地や、雨どいなどは、図面に記載されていないことのほうが多いのです。そこで、現場で図面に書き加えてゆくという作業が必要になります。この作業を行わなければ、正確性を欠いた数量の積算になってしまうのです。そのため、図面のコピーをお願いいたしております。

3.実地調査

3-1.屋根の調査

屋根の調査は重要です。
化粧スレートなど、塗装できる瓦材の場合はもちろん、焼成瓦など、塗装できない瓦材が使用されていても調査を行います。塗装の見積のための調査ではなく、建物が現状どうなっているかを知るための調査なので、「塗る」「塗らない」は関係ないのです。

近年、ドローンが普及するにつれ、ドローンを用いた調査が多く行われているようです。確かに、屋根に上がれない場合には有効です。でも、ドローンさえあれば屋根に上がる必要がないのかといえば、決してそうではありません。

たとえば、調査手法として、写真のような板金部を手で引っ張り上げることを行っています。外れそうになっていないかをチェックするのです。暴風が吹いた後にこういった板金(棟包みなど)が飛んでいってしまうことがありますので、引っぱることによって、下地の木材が腐朽していないかを確認しています。

手で引っ張ったり動かしたりすることは、ドローンではできないですよね…

スレート瓦材の重なり部に縁切りがなされているかをチェックすることも重要です。このように、前回の塗装工事の際に、縁切りをせずに塗装されてしまっていると、雨水の排出が妨げられ、雨漏りのリスクが非常に高まるのです。

スレート瓦材の基材がはがれかかっている場合には、高圧洗浄を行えばはがれてしまうため、塗装できません。

このように、スレート瓦材の小口(断面)を撮影することは、ドローンでは不可能です。ドローンが屋根に接触し、壊れてしまいます…

焼成瓦で、塗装しなくても、屋根に上っての調査が重要です。詳細は後ほど解説しますが、この屋根の納まりには重大な弱点があるのです。

このように、屋根に上がっての調査は、建物を維持してゆくために、たいへん重要なのです。

3-2.外壁の調査

次に、外壁などの調査を行います。
ここでも、主に注視するのは雨仕舞の不具合です。 下地モルタルのひび割れや、サイディングの目地シーリング材の破断・はがれなども調べますが、内側の防水シートを突破しなければ雨水は構造まで浸入しませんので、重要度はあまり高くありません。

それよりも気にすべきは、既存塗膜がはがれている箇所やふくれている箇所です。塗膜はがれ・ふくれの原因には、直接・間接の違いこそあれ、ほぼ水分が介在しています。ですから、塗膜のはがれ、ふくれ箇所の周辺は、腐食(腐朽)したり、水を吸っている可能性があるということなのです。建物から発している不具合のシグナルを見落としてはなりません。

こちらの建物では、外壁がわずかにふくれていました。こういったちょっとした異変も見逃してはいけません。ふくれの原因には水分が介在している可能性が極めて高いので、この上部を見ないわけにはゆきません。

上部はモルタルがむき出しになっており、ひび割れも起きていました。これでは雨水が浸入してしまいます。しかも、雨水の出口となる下部は塗膜で隠蔽されているため、入った雨水は排出されずに留まります。これでは、構造の腐朽などの危険は高まるばかりです。

このように、こちらの建物では、もともと塗られていた壁を塗り替えることより、この上部(天面・天端)を防水化する必要があります。

この例からも、綿密な調査を行い、適切な仕様を組むことが、建物を維持させる目的の改修工事においては、なによりも重要であることは、ご理解いただけたでしょうか。
ただ塗装しても、建物をもたせることにつながらないばかりか、かえって劣化を促進させてしまいます。

そのことからも、建物が発する、ふくれ・はがれなどのシグナルを見逃さないこと、そして、そのシグナルが発生している原因をきちんと究明してゆくことが、非常に大切なのです。

3-3.バルコニー(ベランダ)の調査

建築物、特に木造の建物において、もっとも弱点となりえるのは、水のたまりやすい部位です。すなわち、空を向いている面は、雨水を受けるので、水がたまりやすいのです。

では、建物のどの部位がそれにあてはまるかというと、真っ先にバルコニー(ベランダ)が思い当たります。

(なお、バルコニーとベランダの違いは、庇屋根があればバルコニーで、なければベランダなのだそうです。ですから、住宅では、ほとんどがバルコニーになりますね。)

バルコニーが弱点だということは、みなさんもなんとなくお感じになられていたと思います。弊社にも、バルコニー防水の様子を見てくれという依頼はかなり多くいただいております。

でも、バルコニーの床防水は、案外しっかりしていることが多いです。

実は、それには理由があります。防水層自体は、防水材メーカーから資材とマニュアルが提供されていて、マニュアル通りに施工すれば品質に問題が出ないようになっています。もしそれで問題があるようなら、それはメーカーの責任になってしまいますから、そのような商品を出すことはありません。
したがって、防水層が切れてしまったとかめくれてしまったとかいったトラブルを見かけることは、あまり多くないのです。

そこで、弊社独自のデーターによる、バルコニーにおける代表的な弱点を2つ挙げます。

サッシと外壁とバルコニー防水との取り合いです。
壁と床との関係や、サッシをどの位置に取り付けるかは、設計の問題であり、防水材メーカーや施工者の範疇を超えているのです。この写真のような納まりは、我々実務者からすると、雨漏りのリスクがたいへん高いと直感できるレベルなのですが、そのようになっている責任は、もちろん設計者にあります。したがって、新築当初から雨漏りのリスクを抱えているといっても過言ではありません。

手すり壁(落下防止の袖壁/「腰壁」とも言います)の上端に取り付けられている「笠木」と呼ばれるフタ状の金属部です。この写真のお宅では、笠木上の脚部根元から雨漏りしており、手すり壁内部の木材が腐朽していました。一見すると不具合が起きているようには見えません。それが落とし穴なのです。

2例とも、実際に雨漏りしているお宅の例です。では、もし、これらが雨漏りしていなかったとします。そして、多くの業者が行っているような「塗り替え工事」の見積を依頼したとします。そうした場合、どのような仕様を提案されるでしょうか。

1例目では、単に再防水などを提案してくるでしょうが、納まり、すなわち仕組みに問題があるため、床防水を更新したところで、弱点は解消されません。2例目にいたっては、そもそも見た目の劣化がまったくないので、笠木に対する改修案など、何も提案されないでしょう。

おわかりでしょうか。
「塗り替え工事」の視点では、建物を維持するための工事にならないのです。

我々は、「改修工事」の視点から、1例目では、防水そのものを更新するのではなく、弱点である箇所における雨水の流れを変えるご提案を行います。また、2例目では、笠木における雨水が浸入しやすい箇所を踏まえた止水をご提案いたします。

こういった視点でバルコニーを調査することが重要なのです。

3-4.サーモグラフィーカメラによる調査

建物調査においては、サーモグラフィーカメラ(赤外線カメラ)を活用すると、診断の精度が高まります。サーモグラフィーカメラは、温度を測るものだというのは、みなさんご存知でしょう。さらに申し上げれば、対象の表面温度を測ることが可能な計器です。

この画像は、玄関のバルコニー上げ裏(玄関外の天井部分)の様子をサーモグラフィーカメラで撮ったものです。青く表示されている箇所は低温部であり、水分を伴っている可能性があります。

上げ裏材を撤去したところです。低温部として表示されていた箇所には、予想通り水がたまり、下地材を腐朽させていました。

実は、この住宅の住まい手であるオーナー様は、上げ裏に水がたまっていたことに気づいていませんでした。弊社に依頼したのは、塗り替え工事の見積です。ゆめゆめそんな箇所に雨水が浸入しているなどとは思いもよらなかったのでしょう。

弊社では、塗り替えの見積目的の調査においても、サーモグラフィーカメラは持参するようにしています。なぜなら、このようなことが明らかになった際に取り組まなくてはならないのは、 塗装することより、雨水が浸入した原因を突き止め、改善することだからです。

建物の不具合が明らかになれば、お客様のご要望は当然変わります。ですから、お客様のご依頼内容にかかわらず、建物を調べることは、必ず行わなければなりません。

なお、サーモグラフィーカメラでは、雨水が建物に浸入してきた位置を突き止めることは、原則不可能です。先にお伝えしましたとおり、サーモグラフィーカメラは、温度の差を検知する計器です。一方、水は、原則として上から下へと移動します。したがって、水が存在し、低温部として現れるのは、雨水の浸入口ではなく、雨漏りしている箇所の真上や、今回のように、まだ雨漏りしていないものの、天井や上げ裏に雨水がたまっている箇所なのです。

「赤外線カメラで雨漏りを見える化する」と言っている雨漏り診断技術者もいるようです。ただ、上記のとおり、理論上、雨水の浸入位置はほぼわからないはずです。ですから、そういった言い回しに関しては、間違いであるとは言わないまでも、受け取った側に大きな誤解を生じさせる表現であると思っています。

4.調査報告書の作成

まず、大前提として、建物の維持延命が目的である工事を行うにあたっては、調査報告書がなければなりません。お医者さんがカルテもなしに治療しないのと一緒です。ましてや、大きな手術をするともなれば、検査結果を 患者でもわかるような 報告書にして提出するでしょう。それとまったく同じことなのです。

報告書を作成する目的は、これから行う工事に際し、お客様と施工者にて合意を図るうえで必要なエビデンス(根拠)を提示することです。何度も申し上げているように、塗装しただけでは建物の「もち」は変わりません。逆に、劣化を促進させる恐れだってあるのです。ですから、精いっぱいの建物調査を行い、弱点や不具合を洗い出したのです。報告書にその弱点や不具合を明示することによって、対象となる建物をどのように直してゆくかの指標となるのです。

ここで、ダメな報告書の例を挙げてみます。

この写真に関する報告です。

「チョーキング現象が発生しています。チョーキングとは、紫外線などの影響により塗膜表面の樹脂結合が解け粉化する現象で、劣化のシグナルと捉えることができます。」

ここまでは問題ありません。

「チョーキング現象は塗膜劣化が起きている状態のため、建物を保護する役割が弱まっていることになります。」

本当にそうでしょうか?

そもそも、厚さ0.1mmに満たない塗膜ですから、外部の劣化要因から保護する機能は、きわめて限定的です。それと、「建物を保護する」とは、具体的に何を示すのでしょうか。前提となるその部分にはまったく触れられていません。

以下の文も、論理が破綻しています。

「耐久性や防水性などの性能が低下していることから、雨水が浸入してコケやカビが発生したり、ひび割れが起きたりする危険性が高まっています。」

何度も繰り返しますが、通常の塗膜の厚みは0.1mm未満ですから、塗膜に対して、耐久性(※定義すら不明ですが…)や防水性などは、強く求められているわけではありません。どの塗料メーカーも施工店も、塗装した外壁に防水保証を出すことはないのですが、そのことが何よりの証左です。

また、藻カビが発生するのは、塗膜表面が荒れてきて、表面に水分がとどまりやすくなるからであって、雨水が浸入したからではありません。チョーキングは、塗膜のごく表層が粉化している現象です。ほとんどの塗膜が残っている以上、チョーキングが起こっているからといって雨水を通してしまうようなひび割れの原因とはならないはずです。

なぜ、このような報告書になってしまうのでしょうか。

それは、建物の劣化を、経年によるものと捉えているからです。

「建物は、時が経てばだんだんと劣化してゆくので、その劣化に対応した措置を講じなければならない。」と、「漠然と」思っているからです。

…否、そんなことはありません!

法隆寺の五重塔です。

1300年以上の歳月を超え、現存しています。

1934年から第二次世界大戦を挟み、1985年まで続いた昭和の大修理では、すべての木材をいったんバラして、傷んだものを差し替え、再度組み立て直したのですが、 実際に木材を差し替えたのは、全体の3割程度で済んだらしいです。

この事実の前では、10年や20年で劣化し、建物がもたなくなってしまうなど、まったく理屈にあわないのです。

法隆寺の木材が長い年月を経ても腐朽しない理由はいろいろありますが、建物のつくりによるところが大きいでしょう。大きな傘を何重にも重ねたようなつくりは、木材を腐朽させないためには最適です。そのほか、雨水を排出させるためのさまざまな工夫がちりばめられています。

要するに、建物の構造にまで影響を及ぼすような劣化は、経年変化で次第に起こってくるような類のものではなく、新築時や改築時の「つくり」の不具合が原因となっているのです。

だから、「チョーキング」や「藻カビの発生」といった劣化現象は、それだけで塗り替え工事が必要であるという直接的な理由にはなりえません。

「じゃあどんな報告書ならいいんだよ!」と思われるのは当然です。

いいかどうかは別として、弊社で作成する報告書は、主にこんな感じになっています。

「赤丸で囲った箇所は「すがり部」と呼ばれ、設計上の弱点です。瓦の寸法を考慮し、適切に割り付けられるように設計すれば、赤丸の瓦は水上の瓦の上に乗ることはありませんでした。この状況だと、雨水を呼び込むこととなり、下地木材(垂木)や軒先が腐朽する原因となる可能性があります。」

この状況は、こちらのお宅に特有のものです。言いかえれば、新築時からの不具合です。当然、これでは雨水が浸入しますし、現状でも枯葉などがたまり放題になっています。これは、チョーキングなどとは比較にならないほど重大なポイントであるといえるでしょう。

もし、「屋根は焼成瓦(焼き瓦)だから塗装する必要はありません。」と、調査をしなかったらどうなっていたでしょう。雨水は浸入し続けますので、いずれ瓦内部の防水システムが破綻し、甚大な被害につながっていたかもしれないのです。

「矢印の箇所にシーリングが施されています。水返し板金が立ち上がっていますので、この部分をシーリングで埋めなくても雨水が浸入することはありません。逆に、シーリングされてしまうと、サイディング内部に浸入した雨水や結露水の逃げ場がなくなり、下端に滞ることになります。その結果、塗膜をはがしてしまったものと推測されます。」

この塗膜のはがれは、雨水が浸入したからではなく、雨水の逃げ道がふさがれているからです。こちらのお宅では、過去に一度塗り替え工事を行ったとのことなので、シーリングにてふさがれたのは、新築時からなのか、あるいは塗り替え工事のときなのかはわかりません。でも、ここにシーリングがあるから塗膜がはがれてしまったのですから、このシーリングを更新して塗装すれば、雨水はますます排出されづらくなって、塗膜はすぐにはがれ、サイディングボードも水を吸ってボロボロになってゆくでしょう。

この状況も、こちらのお宅に特有なもので、「このシーリングは撤去すべき」と判断できるかが、建物をもたせるための工事になるかならないかの分かれ目なのです。

このように、調査を行うことや、調査報告書を提出すること自体に意味があるわけではありません。調査は、建物独自の弱点をあぶりだすことが目的です。そして、報告書では、その弱点をわかりやすく解説し、どのように改善してゆくかを提案すべきなのです。