【認知バイアス】X(ツイッター)を更新しました。

「インフォームド・コンセント」という医療用語があります。「医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念です。従前の、医師の権威に基づいた医療を改め、患者の自己決定権・選択権・自由意思を最大限尊重するという理念に基づいています。簡単に言えば、患者の「知る権利」と「治療の選択」をできる限り認めてゆこうという考え方です。

ただし、近年、患者が治療方法などについて自身の考えを押し付け、医師が同意しなければクレームを出すという事例が散見されるようになってきたそうです。もちろん、最終的に患者の身体の責任を負うのは患者自身なので、患者の意思が尊重されなければなりません。とはいえ、明らかに適切ではない提案をされれば、医師としては同意せざるのも当然です。医師は有資格者であるのに対し、患者は素人だからです。

実は私も同じような経験をしています。塗膜がはがれていても、シーリングが切れていても、そこから雨水が浸入し重大な不具合をきたす事例はわずかです。なぜなら、建物は仕組みで耐久性を担保しているからであり、すべてを建材に委ねているわけではないからです。ですから、建材の劣化によって漠然とした不安感をお持ちの方から問い合わせをいただいた際には、お金をかけずに安心していただくために、「工事をしなくてもよいことが多いのですよ」とお伝えしています。しかも、そのことを立証するのに、無料で現地調査を行っているのです(※無料である理由は、全国の同業が見積前の調査を無料にしているからで、率直に申し上げて本意ではないのですが。)。ありていに言えば、タダで調査して、しかもその結果工事をする必要がない、すなわちお金をかけずに済む可能性がある、と申し上げているのです。

でも、そうお伝えした結果、「今回は(調査しなくて)結構です。」とお断りになられる方が一定数いらっしゃいます。調査が無料で、その結果工事の必要がなければ見積を出さないとお伝えしているその人物に対し、どうして疑いの目を向けるのでしょうか?

これはもう「認知バイアス」が働いているとしか言えません。自分が考えていることと異なる見解が出された際、自分を否定できずに客観的思考が失われてゆくのです。塗膜がはがれる、シーリングが切れるといった現象がその人にとっての一大事であるのに、他人に「大したことはない」と言われると、見解の相違を超え、自分自身を否定されたと思ってしまうのです。先の医師と患者の例と同様です。

誤解していただきたくないのは、特定の人物をたしなめるために申しているのではありません。かくいう私も、認知バイアスの罠にかかり、客観的合理性を失してしまうことがしばしばです。ですから、これをお読みになられている皆さんがよくあるために、あえて自戒を込めてご諫言をしているのです。

こういった「主観の沼」に陥らないようにするには、人は認知の歪みを起こすものだと、先に認識しておくことです。無料だと言っているのだから、話を聞くだけであれば損はないはずです。