保証について

依頼者が保証を重視する理由

塗装工事を依頼する側の立場として、保証を求めたがるのは当たり前のことです。

その塗装工事が本当に価値のあるものであったかどうかは、5年、10年経たないとわからないのですから。

どんなに施工実績があっても、どんなに評判がよくても、それをうのみにすることはできません。

クレームを隠して実績を増やすことは可能ですし、今やクチコミは業者側で操作できますから。

したがって、工事を依頼する方は、業者に対し、程度の差こそあれ、全幅の信頼は置いていないと考えるほうが自然です。

だから、保証にすがるのです。

でも、私のブログで、再三にわたり、実例を挙げ、何度も申し上げてきたように、ただ塗っただけでは建物をもたせるどころか、かえって劣化を早めることにつながりかねません。

反面、多くの依頼者(あえて言えば私のブログを読んでいない大多数の方々)は、塗り替えることによって建物が守られると思っています。

このように、塗装工事における依頼者のイメージと現実との間には、大きなギャップがあるのです。

そのあたりを踏まえ、保証書の内容について詳しく見てゆきます。

保証内容について

塗り替え工事の保証は、主に、著しいはがれ、および色あせが対象です。

要は、塗膜に対する保証です。

では、はがれたり色あせたりしなければ建物が劣化したり腐ったりしないのかといえば、そんなことはありません。

たとえば、ひび割れです。

ひび割れが起きれば、雨水が建物の内部に入ってくるイメージがありますよね(正しくはひび割れだけでは構造まで浸入することはほとんどないのですが)。

ですから、皆さんのイメージとしても、他の劣化現象に比べ危険性がきわめて高いと思われるでしょう。

でも、ひび割れは、保証の対象とはなりません。

ひび割れが起きるのは、建物全体もしくは一部分が動くことが原因です(他にもありますが割愛)。

それに対して、通常の工法で塗られた塗膜は、厚みがほとんどありません。

塗料や下地(塗る対象)によって異なりますが、3回から4回塗ったとしても、厚さが0.1ミリを超えることはほとんどありません

…すごく薄いですよね!

そんな塗膜で、ひび割れを起こす原因である建物の動きを止めることなどできません

それほどの薄さなので、塗膜が伸び縮みして建物の動きについてゆき、ひび割れを起こさないようにすることも不可能です。
※伸縮する特殊な塗料を用い、特殊な塗り方をすれば、厚みが出てひび割れしづらい塗膜を作ることも可能ですが、一般的な塗り替え工事では行われていません。

ひび割れは、きちんと施工していても発生します。

施工のまずさでひび割れが発生するわけではないのですから、保証できないのは当然です。

保証されるのは「塗膜」のみ

さらにいえば、塗装工事の保証は、塗膜に対してのみです。

構造の不具合や建物の腐食(腐朽)などに関してはまったく考慮されません

対象は、あくまで、施工したもの、すなわち塗膜に関してです。

そのことは、施工者側の立場から見れば、ある意味当然であるといえます。

工事していないところまで「保証しろ」と言われても、困ってしまいますから。

このように言い換えることができるでしょう。

建物の劣化に対して行う「塗装工事」ですが、建物の根幹に関する劣化に対しては保証できません

この点が、塗装工事の保証における「大いなる矛盾」です。

保証書の中身を公開します!

ここからは、具体的に、保証書のサンプルを見ながらお話をしてゆきます。

弊社の保証書の中身

まずは、弊社でご提出している外壁塗装工事における一般的な保証書の中身をお見せいたします。

(表面)

外装修繕施工保証書

湘南 塗郎 様

  1. 工事件名  貴邸外壁他塗装工事
  2. 工事場所  神奈川県藤沢市○○町○丁目○-○
  3. 工事仕様  外壁及び屋根他塗装
  4. 竣工年月日 ○○○○年○○月○○日
  5. 保証期間(竣工時より)
    ①外壁塗装塗膜の著しい剥離、変色、退色について 5年
    ②屋根塗装塗膜の著しい剥離について 4年
    ※シーリング上の塗膜は除きます。
    ※施工前より剥離していた箇所においては保証の対象外となります。
    ※屋根における変退色(色あせ)は保証の対象外となります。
    ※その他の免責事由につきましては裏面に記載いたしております。

当該工事について、上記保証期間中に本書に定める不具合が発生した際に、本保証書の提示があれば、弊社は当該箇所の無償補修及び第三者に対する賠償の責を負うことといたします。
ただし、上部・および裏面に掲載の各事由により発生した不具合につきましては、期間中であっても保証対象外となりますことをご了承ください。

○○○○年○○月○○日

神奈川県藤沢市湘南台三丁目5-18
株式会社リペイント湘南
代表取締役 原田芳一

(裏面)

[免責事由]

以下の事由により不具合が発生した場合については、保証の適用を除外いたします。

  • 工事完了後における増改築・補修並びに設備機器或いは付属品等の取付による場合。
  • 本修繕工事に因らない建築施工上の欠陥に因る場合。
  • 建物自体の変形や変位等に因る場合。
  • 内部結露による下地材の腐食、経年変化による下地材の反り・くるい等に因る場合。
  • 経年変化による軽度の塗膜白化や軽度の色ムラ及び埃の堆積による水切り部の変色や白化現象。
  • 苔、藻、カビ等の発生による汚れや変色。
  • シーリング上の塗膜における剥離、変色、退色。
  • 天面(空を向いている面)が外壁と同じ仕上げになっている部位における剥離、変色、退色。
  • 施工前から塗膜がはく離していた部位における施工後の再はく離、変色、退色。
  • 保証期間経過後に申し出たもの、又は保証期間内でも初期の不具合をご連絡いただけないまま長期間放置したために生じた拡大損害の場合。
  • お客様の重大な不注意や第三者による破損など、明らかに弊社の責任でない場合。
  • 天災、火災または地盤沈下等の不可抗力による場合。
  • 施工時にお客様から告知されなかった漏水による場合。
  • 施工時に予測が不可能な建築物の劣化による場合。

[著しい剥離・変色・退色の定義]

  • 著しい剥離:およそ半径10cm以上で、かつ、施工箇所に複数見られる場合。
  • 著しい変色・著しい退色: 下記①,②を共に満たす場合。
    ①【(一社)日本塗料工業会 塗料用標準色】基準で、
    ・色相:10度以上
    ・明度:20度以上
    ・彩度:3度以上
    の差異があること。
    ② ①の差異が同一平面上で発生していること。

他社の保証書の中身

弊社の保証書の内容が業界の標準より著しく偏っているのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。

そこで、情報の保護を条件に、とある塗装業者様の保証書を手に入れることができましたので、その内容を載せます。

(表面)

工事施工保証書

○○ ○○ 様

この度は弊社へ工事の発注を頂き、誠に有り難う御座います。
本書は記載内容の範囲で、当社の施工上の瑕疵が生じた場合、無料にて補修させて頂くことを御約束するものです。
工事には万全を期しておりますが、万が一保証期間中、施工に関する欠陥が発生した場合は、弊社に補修を御依頼の上、本書をご提示下さい。

工事名  ○○様邸 屋根外壁リフォーム工事

所在地  ○○県○○市○○区○○町○-○-○

施工仕様 屋根:○○ペイント ○○(塗料名) ○○(色名)  

     外壁:○○ペイント ○○(塗料名) ○○(色名)                            

施工面積 屋根: 68平方メートル 外壁:116平方メートル

工事完了日  ○○○○年○○月○○日

瑕疵保証期間      
屋根塗装工事完了日より        5年間
外壁塗装工事完了日より        5年間

○○県○○市○○町○-○-○
○○○○株式会社
代表取締役 ○○ ○○

(裏面)

免責事項

保証期間内でも下記事項は有料補修となる場合があります。

1. 躯体・下地基材の劣化、吸水、吸湿、構造上の動き等による割れ・欠損・変形・塗膜剥離等の損傷など外観変化。

2. 経年劣化による塗膜の白化や錆び、変退色。

3. シーリング部の経年劣化や地震等による割れ・剥離・変退色。

4.   シーリング上の塗膜の割れ・剥離・変色。

5. 防水施工部分位以外からの漏水。

6. 防水材、シーリング材、目地材、下地調整材などに起因する汚染・割れ・剥離等の損傷など外観変化。

7. 下地から発生するサビ、および周辺からのもらいサビによる塗膜の剥離など、外観変化。

8. 自然災害・周辺災害(地震・津波・水害・暴風・豪雨・豪雪・落雷・火事・火山灰・放射線など)による損傷など外観変化。

9. 特殊な周辺環境(常時波しぶきがかかる海岸地域、酸・アルカリ・塩類腐食 性ガスなどの影響を常時受ける地域、直接融雪剤散布の影響を常時受ける地域、温泉源泉近隣地域など)による損傷など外観変化。

10. 飛来物や結露による微生物(カビ・コケ・藻)汚染や、もらいサビ汚染及び構造上に起因する汚染。

11. 動植物・鳥害等に起因する損傷など外観変化。

12.  保証期間内の外観変化のすみやかな連絡がない為に生じた被害拡大。

13.  お客様の増改築に起因する損傷など外観変化。

14.  お客様または、第三者の故意ならびに過失による損傷。

「保証」しなくてもよい保証書

どうだったでしょう。

勘のよい方は、もうお気づきかもしれません。

免責事項を、くまなく、注意深く読み込んでもらえると分かります。

免責となっている項目以外で、保証になるような不良はまず起きないです。

すなわち、業者は(弊社であっても)

「保証書によって保証することはない」

ということなのです。

「ずいぶんとひどい話だ!」

「サギではないのか!」

そう思われ、腹が立った方もいらっしゃるかもしれません。

でも、われわれ業者の視点に立つと、サギとも言えなくなるのです。

(本当は)塗膜保証が無理な理由

さて、ここからは、「保証しなくてよい保証書」について、塗装業者側の立場から考えてみたいと思います。

ひび割れが保証できないことは先にお伝えしたとおりです。

ひび割れに関しては、防ぎようがないですから。

他に起こりそうな塗膜不良って、フクレ、ハガレ、色あせくらいですよね。

フクレ・ハガレについて

まずは、フクレ・ハガレからです。

塗膜がふくれたりはがれたりする原因のほとんどに、水が関係しています。

何らかの原因により外壁の内側に水がたまり、それが気化する際に体積を爆発的に増やし、そのエネルギーで塗膜をふくさせたりはがしてしまうのです。
※水が気化する際には体積は1700倍になるそうです。

そうなると、こんなことが言えます。

水分が外壁の内側から外側に出ようとする際にフクレ・ハガレが起きるのだから、塗膜をきちんとつくってしまえばしまうほどふくれたりはがれたりしてしまう。

率直に申し上げて、フクレ・ハガレに関しては、手を抜いて、すき間だらけで、塗膜にならないように、うすーく塗ったほうが起こりづらいのです。

この話をしても、なかなか信じてもらえないのですが…

でも、私のブログを読んでくださっている皆さんなら、このことがいかに理に適っているか、ご理解いただけるでしょう。

きちんと塗装したほうが、ふくれたりはがれたりするリスクが高まるのであれば、塗装業者はどうやってそのリスクを回避すればよいのでしょうか?

実は、雨仕舞の知識に基づき、なるべくフクレ・ハガレが起きないような施工を心がけることは可能です。

でも、だからといって、フクレ・ハガレを必ず未然に防げるかといえば、難しいでしょう。

避けることのできない現象に対して保証しなければならないというのは、腑に落ちません。

色あせについて

次に、色あせについてです。

色あせが起こる原因について簡単に説明します。

塗料のうち、塗装すると膜になって残るものは、主に「樹脂」と「顔料」(と「添加剤」)で出来ています。

「樹脂」は、塗る相手にくっついて膜になる役割をもっています。

「顔料」は、色をつける役割です。

したがって、色あせは顔料が何らかの影響を受けることで起こります。

顔料の変化で最も色あせに影響するのが、紫外線によって顔料の結合が破壊されてしまうことです。

「チョーキング」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

塗膜が粉状になる現象です。

塗膜を手でこすると表面に白い粉がつく、あれです。

チョーキングは、塗膜表面の顔料の結合が壊された結果起きる現象なのです。

…果たして、色あせって、塗装業者がミスを犯したり手抜きをしたから起こるものですか?

ほぼ、塗料の性能によるものですよね。

もちろん、きちんと塗らなければ色ムラは起こります。

でも、それは、施工後すぐにわかるはずのものです。

だから、お客様としては、ムラが分かったら、工事代金を払う前に直させればよいのです。

保証で保護される対象である、数年後に発生する不具合とは意味が異なります。

色ムラとは異なり、色あせについては、きちんと塗ったからといって、防ぐことはできません。

塗装業者の力の及ばないところで起こってしまうのです。

しかも、このことをより複雑にさせるのが、同じ性能の塗料を選んだとしても、選んだ色によって色あせまでの期間が変わってしまうということだったります。

塗料の性能によって起こる現象で、しかも、選んだ色によって発生する確率が異なってくるとなれば…

不確実性が高すぎます。

施工する側でコントロールが利かない類の劣化現象です。

ですから、もはや、施工した塗装業者が保証するのはナンセンスであると、私はそう思うのですが、いかがでしょうか。

それでも塗装業者は保証を出す

にもかかわらず、保証を出さない外壁塗装業者のほうが圧倒的に少ないのが現実です。

しかも、競うように長期の保証を謳う業者が増えています。

なぜ、自分たちのミスでもなんでもない、不可抗力によるトラブルに対応しなければならないような保証を、しかも、常識を超えるほどの長さで出すのでしょうか?

…もうお分かりですよね。

保証期間が長ければ長いほど、契約を取りやすいからです!

お客様に提出する保証書は、保証」しなくてもよいものになっているとお伝えしました。

保証しなくてもよい内容の保証書なのだから、お客様のウケがいいように、長く出しておこうと思うのは当たり前です。

このように申し上げるのは心苦しいのですが、そうさせてしまうのは、お客様側にも原因があるのです。

保証にすがるお客様

「この塗料は何年保証がつくのかしら?」

「他社さんのほうが保証が長いんだけど?」

私はいままで、何度となく、お客様からこのような質問を聞かされてきました。

依頼者の心理としては、保証にすがってしまう気持ちもわからなくはないです。

でも、これまでお伝えしてきましたように、そこまでして大事に思ってきた保証書は、中身のないものなのです!

「依頼者は保証の長さにだけこだわって、実際の中身はほとんど検証しない。」

このことが分かっている業者は、どう対応するかは、言わずもがなですね。

言い方は悪くなりますが、保証にこだわる依頼者は、業者の絶好のカモになってしまうのです!

これが、塗装工事の保証がどんどん長期化する真の理由です。

外壁塗装は、そこに据え付けられてから何年も経過している、しかも、どのようなつくりになっているか明らかではない対象を塗る工事です。

天候に左右されない屋内の工場でゼロから作り上げた(例えば)電化製品が、1~2年程度のメーカー保証しかつかないのに、不確定要素が満載の屋外塗装工事が、そんなに保証できるはずがないではありませんか。

失礼を承知で申し上げれば、このことだけを捉えても、依頼者側がもっと客観的な視点を持たなければならないと、切にそう思います。