【「塗り替え工事」ではなく「改修工事」であるために】建物調査が最も重要です!(その6) 調査報告書の作成-1
原田芳一です。
ずいぶん間が空いてしまいましたが、前回の投稿の続きです。
前回の記事はこちら。
まず、大前提として、建物の維持延命が目的である工事を行うにあたっては、調査報告書がなければなりません。お医者さんがカルテもなしに治療しないのと一緒です。ましてや、大きな手術をするともなれば、検査結果を 患者でもわかるような 報告書にして提出するでしょう。それとまったく同じことなのです。
報告書を作成する目的は、これから行う工事に際し、お客様と施工者にて合意を図るうえで必要なエビデンス(根拠)を提示することです。何度も申し上げているように、塗装しただけでは建物の「もち」は変わりません。逆に、劣化を促進させる恐れだってあるのです。ですから、精いっぱいの建物調査を行い、弱点や不具合を洗い出したのです。報告書にその弱点や不具合を明示することによって、対象となる建物をどのように直してゆくかの指標となるのです。
ここで、ダメな報告書の例を挙げてみます。
この写真に関する報告です。
「チョーキング現象が発生しています。チョーキングとは、紫外線などの影響により塗膜表面の樹脂結合が解け粉化する現象で、劣化のシグナルと捉えることができます。」
ここまでは問題ありません。
「チョーキング現象は塗膜劣化が起きている状態のため、建物を保護する役割が弱まっていることになります。」
本当にそうでしょうか?
そもそも、厚さ0.1mmに満たない塗膜ですから、外部の劣化要因から保護する機能は、きわめて限定的です。それと、「建物を保護する」とは、具体的に何を示すのでしょうか。前提となるその部分にはまったく触れられていません。
以下の文も、論理が破綻しています。
「耐久性や防水性などの性能が低下していることから、雨水が浸入してコケやカビが発生したり、ひび割れが起きたりする危険性が高まっています。」
何度も繰り返しますが、通常の塗膜の厚みは0.1mm未満ですから、塗膜に対して、耐久性(※定義すら不明ですが…)や防水性などは、強く求められているわけではありません。どの塗料メーカーも施工店も、塗装した外壁に防水保証を出すことはないのですが、そのことが何よりの証左です。
また、藻カビが発生するのは、塗膜表面が荒れてきて、表面に水分がとどまりやすくなるからであって、雨水が浸入したからではありません。チョーキングは、塗膜のごく表層が粉化している現象です。ほとんどの塗膜が残っている以上、チョーキングが起こっているからといって雨水を通してしまうようなひび割れの原因とはならないはずです。
なぜ、このような報告書になってしまうのでしょうか。
それは、建物の劣化を、経年によるものと捉えているからです。
建物は、時が経てばだんだんと劣化してゆくので、その劣化に対応した措置を講じなければならないと、「漠然と」考えているからです。
…否、そんなことはありません!
法隆寺の五重塔です。
1300年以上の歳月を超え、現存しています。
1934年から第二次世界大戦を挟み、1985年まで続いた昭和の大修理では、すべての木材をいったんバラして、傷んだものを差し替え、再度組み立て直したのですが、 実際に木材を差し替えたのは、全体の3割程度で済んだらしいです。
この事実の前では、10年や20年で劣化し、建物がもたなくなってしまうなど、まったく理屈にあわないのです。
法隆寺の木材が長い年月を経ても腐朽しない理由はいろいろありますが、建物のつくりによるところが大きいでしょう。大きな傘を何重にも重ねたようなつくりは、木材を腐朽させないためには最適です。そのほか、雨水を排出させるためのさまざまな工夫がちりばめられています。
要するに、建物の構造にまで影響を及ぼすような劣化は、経年変化で次第に起こってくるような類のものではなく、新築時や改築時の「つくり」の不具合が原因となっているのです。
だから、「チョーキング」や「藻カビの発生」といった劣化現象は、それだけで塗り替え工事が必要であるという直接的な理由にはなりえません。