【「塗り替え工事」ではなく「改修工事」であるために】建物調査が最も重要です!(その7) 調査報告書の作成-2
原田芳一です。
前回の投稿の続きです。
前回の記事はこちら
前回は、ダメな報告書の例を挙げさせていただきました。
「じゃあどんな報告書ならいいんだよ!」と思われるのは当然です。
いいかどうかは別として、私が作成する報告書は主にこんな感じになっています。
「赤丸で囲った箇所は「すがり部」と呼ばれ、設計上の弱点です。瓦の寸法を考慮し、適切に割り付けられるように設計すれば、赤丸の瓦は水上の瓦の上に乗ることはありませんでした。この状況だと、雨水を呼び込むこととなり、下地木材(垂木)や軒先が腐朽する原因となる可能性があります。」
この状況は、こちらのお宅に特有のものです。言いかえれば、新築時からの不具合です。当然、これでは雨水が浸入しますし、現状でも枯葉などがたまり放題になっています。これは、チョーキングなどとは比較にならないほど重大なポイントであるといえるでしょう。
もし、「屋根は焼成瓦(焼き瓦)だから塗装する必要はありません。」と、調査をしなかったらどうなっていたでしょう。雨水は浸入し続けますので、いずれ瓦内部の防水システムが破綻し、甚大な被害につながっていたかもしれないのです。
「矢印の箇所にシーリングが施されています。水返し板金が立ち上がっていますので、この部分をシーリングで埋めなくても雨水が浸入することはありません。逆に、シーリングされてしまうと、サイディング内部に浸入した雨水や結露水の逃げ場がなくなり、下端に滞ることになります。その結果、塗膜をはがしてしまったものと推測されます。」
この塗膜のはがれは、雨水が浸入したからではなく、雨水の逃げ道がふさがれているからです。こちらのお宅では、過去に一度塗り替え工事を行ったとのことなので、シーリングにてふさがれたのは、新築時からなのか、あるいは塗り替え工事のときなのかはわかりません。でも、ここにシーリングがあるから塗膜がはがれてしまったのですから、このシーリングを更新して塗装すれば、雨水はますます排出されづらくなって、塗膜はすぐにはがれ、サイディングボードも水を吸ってボロボロになってゆくでしょう。
この状況も、こちらのお宅に特有なもので、「このシーリングは撤去すべき」と判断できるかが、建物をもたせるための工事になるかならないかの分かれ目なのです。
調査報告書は、こんな感じで作ってゆきます。ポイントは、そのお宅に特有な現象を調べ出し、あるべき姿に変えてゆくような提案をしてゆくことです。