お住まいの状態を最も把握しているのは「住まい手」である、ということ

原田芳一です。

前回の続きです。

前回の記事はこちら。

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前回のまとめと追記

前回の記事のまとめです。

業者が行う定期点検なんて、まったく役に立ちません。

なぜなら、わずかな時間で建物をくまなく調べることなどできないからです。

しかも、です。

前回書かなかったことを付け加えます。

業者が行う定期点検など、お手盛りになるに決まっています。

好き好んで自分から不良箇所を伝えるなど、人間の心理として行えるはずがないのです。

「外壁塗装 定期点検」などといったワードで検索してみてください。

「こんな不具合がありました。反省して勉強し直します。」

みたいな記事には、まず巡り合うことはありません。

定期点検の内容についての紹介か、

「まだこんなにキレイです」

などといった、自社の施工のアピールのどちらかです。

ここで、皆さん、よく考えてください。

定期点検で不具合が何も見つからないのは、はたして良いことなのでしょうか?

私なら、このように思考を巡らせます。

・念入りに点検していないから不具合が見つからないだけなのでは?

・そもそも、不具合を伝えるという行為自体、自首するようなものなので、見つかっても隠すのでは?

そして、これが最も重要なポイントです。

・施工した後の不具合がひとつも見つからなければ、これ以上知識・技術が向上しないではないか?

知識や技術は、反省をもとに向上してゆくものです。

不具合を明らかにしない、または不具合に気づかないのは、知識や技術の向上を放棄しているのといっしょです。

※ちなみに、弊社では、今までも施工後に確認した不具合について、可能な限りウェブサイトから発信するように心がけています。それは、そうすることにより、新しい発見やより深まった知見などを、社内だけではなく、閲覧していただいているお客様と共有したいとの思いからです。

お医者さんが問診をするワケ

前回の話に戻ります。

医師が患者を診るときに、必ず問診をするとお伝えしました。

その際、

「痛いのはどのへんですか」

とか、

「どんな感じで痛みますか」

とか、

「いつから痛くなりましたか」

などといった質問をすると思います。

このことがたいへん大事です。

…と言われても、何のことかわかりませんよね(笑)

私が言いたかったのは、

「聞かなければわからない」

ということなのです。

私は、数々の建物の不具合を見て直してきたことから、建物に関する知識、建物の不具合の原因や対応についての知見は、一般の方よりも持っているでしょう。

でも、そんな私でもわからないことがいくつかあります。

まずは、

「どこに不具合が発生しているのか」

これは、たとえば住宅であれば、調査によって発見し、住まい手の方にお伝えすることもありますが、ヒアリングの際に住まい手の方から教えてもらうこともあります。

特に、雨漏りに関しては、そのほとんどが、依頼者から教えてもらわなければわかりません。

そして、

「不具合はいつから発生しているのか、また、その不具合は進行しているのか」

これに関しては、当たり前ですが、ヒアリングすることなく私が把握できることはまずありません。

不具合に対して、時間の経過によってどのように変化してゆくのかという視点でとらえることは、非常に重要です。

たとえば、軒裏にシミがあったとします。

この記事をお読みになられている方なら説明はいらないとは思いますが、「軒裏」とは、屋根の裏面にあたる天井部です。

赤丸で囲った箇所にシミがあります。

さて、このシミはどういった経緯で発生したのでしょうか?

また、その原因は何なのでしょうか?

シミの色や形である程度判別がつくこともありますが、多くの場合、一見しただけでは情報が少なく、原因や発生のメカニズムに関し、精度の高い推論を立てることは難しいです。

そこで必要になってくるのが、「経時変化」をとらえることです。

建物の不具合は経時変化でとらえるべき

たとえば、

①このシミはいつ頃から発生したのか?

②その後、時が経つにつれてシミは大きくなっているのか?または変化していないのか?

③天気によってシミの大きさは変化するのか?

といったことなどです。

①によって、下地の木材が腐朽しているか否かについて、おおよその推測ができます。

なぜなら、木材が湿り始めてから4か月以上経過しないと*、木材は腐り始めないのです。
*木材が腐朽し始めるには、木材の含水率が繊維飽和点(約28%)以上で、かつ腐朽菌が生息するに足る酸素、および適温(5~40℃)の状態が16週間以上維持されるのが条件であることが、実験により明らかになっています。

ですから、つい最近シミができたとすれば、下地木材まで腐朽している可能性は低いのではないかと推測されるのです。

②については、もしシミの様子に変化がなければ、そのシミは何かの拍子についたものであって、不具合ではないということが推測されます。

③については、もし一定の気象条件、たとえば南からの吹き降りの雨のときにだけ発生するとすれば、そのシミの原因は湿気によるものでも設備の漏水によるものでもなく、雨漏り、または雨に起因する現象であることが推測されます。

このように、その不具合を経時変化で捉えておかなければ、原因を解明することが極めて難しくなってしまいます。

それでは、その経時変化は、誰がわかっているでしょうか?

そうです、住まい手である皆さんなのです!

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